子供の頃、私は「ゲームを作る人」になりたいという夢を抱いていた。
ある日、少年だった私はその夢の一歩として、ドラゴンクエストIIIのデータを改造しようと試みた。
方法もよくわからないまま、バイナリエディタを立ち上げ、ワクワクしながらゲームのデータを開いた。
だが、その瞬間、私は一瞬にしてゲームプログラマーになる夢を諦めた。
そこに広がっていたのは、無数の数字と記号の羅列。
意味のわからない機械語に圧倒され、直感的に「これを一つでも変えたらすべてが壊れるんだ」と恐怖を感じた。
そして、不思議なことに、その無機質な数字の羅列には、触れてはならない「禁断の美しさ」があった。
それはまるで、神聖なものを覗き込んでしまったような感覚だった。
「これは、私には無理な世界だ」 そう子供ながらに悟り、震える手でウィンドウをそっと閉じた。
何もできなかったし、何もしなかった。
でも、そのときの感覚だけは、今でも鮮明に、脳内に焼き付いている。
私が手を引っ込めてしまったその暗い森の奥へ、 臆さずに足を踏み入れた誰かがいるのかもしれない。
同じように、ドラクエIIIのエディタを開いて、 私には読めなかったコードの羅列に意味を見出し、 「こうすれば壊れない」と確信して、一歩ずつ理解を重ねていった人。
その人はきっと今、 見えない場所でコードを綴り、 新しい世界を、ゲームという形で生み出しているんだろう。
私はあのときウィンドウを閉じた。
でもその体験は、 私の中にずっと残っていて、 「創る」ということの本質的な尊さを教えてくれた。