
一時期はネットで「ワースト食漫画」などと揶揄されていた『野原ひろし 昼メシの流儀』
だが気づけば、単行本は10巻を超え、今ではアニメ化もされ、ニコニコ動画で30万再生を超え、Amazonプライムではアニメ部門ランキング1位を獲得するほどの人気作となった。
かつて批判の対象だった作品が、なぜここまで愛されるようになったのだろうか?
連載当初、この作品はネット上で徹底的に叩かれた。
「顔芸が不気味」「うまい!を連呼するだけ」「ひろしでやる必要ある?」「自分のことを野原ひろしだと思い込んでいる精神異常者」など、数多くのツッコミが飛んだ。
特に印象的だったのが、野原ひろし殺し屋の流儀と言われ、ミーム化されたひろしの名言の数々だ。
このあたりの名言?がコラ画像として、ネットミームとして爆発的に広がった。
当初は完全にネタ扱いだが、そこにこそ、この作品の転機があった。
作者・塚原洋一氏の姿勢が、作品の評価を静かに変えた。
SNS時代においては、炎上すれば弁解したり、逆ギレしたりするクリエイターも少なくない。
国民的アニメのスピンオフ漫画を描くのだから、プレッシャーや言いたい事もあるだろう。
しかし塚原氏はまったく違った。
批判されても、ネタにされても、一切動じずに漫画を描き続けた。
自己アピールもメンヘラ的発言もなく、黙々と「野原ひろしの昼飯」を描き続ける
そのプロ意識と、誰も傷つけない優しい世界感の漫画が、いつしか読者に誠実さとして伝わっていった。
やがて、読者の間でこう言われるようになる。
「笑ってたけど、いつの間にか応援もしてた。」
『野原ひろし 昼メシの流儀』単行本14巻、発売中です!!
— 塚原洋一@アニメ化決定『野原ひろし 昼メシの流儀』 (@YoichiTsukahara) 2025年9月20日
今巻のひろしは、ランチを通して新しい価値観を楽しく学んでいきます。
作中カットは、江戸・明治・昭和のひろしです。
よろしかったら、ぜひ!!
そしてアニメはいよいよ10月3日よりBS朝日にて放送開始。各動画配信サービスからも順次配信。 pic.twitter.com/W2WqrKPttb
アニメ化された『野原ひろし 昼メシの流儀』は、その真剣さがさらに加速した。
漫画特有のカオスなオープニング、声優の森川智之さんの本気の演技、ストレスなくサクッと楽しめる構成。
全てが無駄に本気なのだ。
だがその本気さこそが、視聴者を惹きつけた。
ネタとして笑えるけど、馬鹿にできない。
この絶妙なバランスが、「ネタ漫画」から「愛される作品」への転換点になった。

『野原ひろし 昼メシの流儀』が評価された背景には、ネット文化の変化もある。
昔なら「ネタ=嘲笑」で終わっていたものが、今では「ネタ=愛の形」に変わってきた。
「真面目にバカをやる人」を笑いつつ称える。
その古くさい昭和の笑いのスタンスこそ、令和のネットユーザーが好む空気感だ。
この作品はまさに、その象徴となったと思う。
『野原ひろし 昼メシの流儀』がここまで来た理由は、決して偶然のバズではない。
叩かれても、笑われても、真摯に描き続けた作者と、それを見続けた読者。
両者の間に生まれた静かな信頼と安心感が、作品を「愛される存在」へと変えたのだ。
最初は笑っていた人も、今ではきっと思っているだろう。
当たり前のことだが「野原ひろし昼メシの流儀は、あの野原ひろしでないと成り立たない」と。
